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2003.07.07 Monday

生命史的人生訓

「地球史が教える若者の生き方」 原田憲一 (c)Harada, Kenichi 2002-
5.生命史的人生訓

最近やたらに「日本人には個性がない。もっと個性を育てよう」という言葉がはやっていますが、とんでもない誤解です。個性とはほかでもない、君たち一人ひとりの存在そのものです。母親でなければ父親でもない、先に生まれた姉とも後から生まれてきた弟とも全く違う個性がある。それは受精したとたんから与えられているものです。だからこそ、君たちは、それぞれに違った生き方をする。
釈迦は、生まれてくる時に「天上天下唯我独尊」と唱えたそうです。この広い世の中で我はただ一人。ただ一人だからこそ我は尊いのだ、と。しかし「天上天下唯我独尊」とは、決して釈迦だけのことを指した言葉ではない。全ての命がそうだということを言ったわけです。君たちもそうなのです。過去40億年の生命の歴史の中で、さらにはこれから数億年の未来にも、君は君しかいない。貴女はあなたしかいないということを言ったわけです。
だから、君たちはまず、生まれてきた自分が今生きている、そのことに自信を持ってください。そのために、家に帰ったら、ノートに「天上天下唯我独尊」と大きく書いてください。
それからお父さんお母さんに尋ねてみてください。「お父さん、私が先に死んだらどう思う」「それは悲しい」。「私が現役で一流大学に入ってすぐ死ぬのと、1年か2年浪人しても長生きするのとどっちがいい」。もちろん両親とも「子どもの長生きが一番。我われが先に死んだ後でも、できるだけ長生きしてくれ」と言いますよ。
とはいえ、親にはやはり子供に託したい夢があるので、「しっかり勉強しろ」とか「もうちょっと剣道練習して全国大会にでろ」と言うのです。「じゃあ勉強したり、練習するけど、先に死んでもいいのか」と開き直ると「お父さんお母さんより先に死ぬのだけは勘弁してくれ」と頼まれる。ということは、君たちは生きているだけで親孝行しているわけです。だから、ノートの2行目に「子供らは生きているだけで親孝行」と書く。

そうして、自分がただ生きているだけでも意味があるのだと自信を持つと、自分はありのままでいいことに気づくはずです。なにも金髪に染めても白人になれるわけでないし、テレビ俳優と同じような格好をしてみても、テレビ俳優になれるわけではない。だから、ありのままの自分を認めて、時には「しっかり親孝行してるな」と自分で自分を誉めてやる。そしてまた、翌日から堂々と生きていく。
ところが、多くの若者は個性を発揮しようとして、逆に個性を殺してしまっています。その誤りとは他人を真似ることです。例えば、映画俳優の歩き方を真似してみる、しゃべり方を真似してみる。髪型を真似してみる、服装を真似してみる。でも心の底では納得していない。自分が本当にしたいことはこんなことではない、と。でも、それでは格好悪そうだから、うわべだけ真似しているだけだ、と。要は、自分のDNAを裏切っているわけです。
君たちの遺伝情報は、60億人の中で一人ひとり決まっている。だから、自分のDNAが言うことに耳を傾けて行動していれば、本質的に好きなことをやっているわけだから楽しいし、やっていることにも自信が持てる。ところが、人真似をすると、DNAを裏切っているので、すべてに自信が持てない。自信がないから、どうしても似たような類が集まって、群れを作る。しかし、DNAの裏切り者同士がいくら群れ集まっても、お互いに楽しくないし、自信ももてない。だから、弱い者を見つけると、いじめたくなる。しかも一人だと自信が無いから、集団でいじめる。
そうした地獄に陥らないために、ノートの3行目に「人真似はDNAが許さない」と書くわけです。

そうすると、校則も関係ない。部活も勉強も関係ない。自己中心的に好き勝手に生きていけばいのだ、と考える人が出てくるかもしれませんが、これまた違う。人間の遺伝情報を調べてみると、93%は人間全体に共通しているからです。(註10)つまり、生き方も9割がたは、他人と同じじゃないといけないわけです。むしろ同じでなくては社会で通用しない。だから、朝から学校に行って漢字を覚えて誰でも読める字を書くとか、計算の仕方を覚える必要がある。
ですから、明日からDNAに忠実に生きるぞと言って、突飛もないことを考える必要はないし、無茶する必要も無い。そこでノートに続けて「自己中もDNAが許さない」と書き込みます。

個性を磨くと言いますが、9割がたは他人と同じでよいのだから、まず誰にとっても共通する事柄である基本というものを他人と同じレベルまできちっとやる。それで初めて、残りの7%、つまり自分の個性を生かす余地が出てくるわけです。
例えばイチロー選手の振り子打法。彼も最初は並みの一流選手でした。常に自分の目標を高く掲げて、人一倍練習して打撃の基本を習得したからです。しかし、どうしても超一流への壁を乗り越えられない。それで自分だけに合った振り子打法を編み出して大打者になった。ダイエーの王監督は高校卒業後に巨人に入って長嶋選手とプレーした人です。彼も、最初はなかなか打てなくて、バッターボックスに立つたびに「王、王、三振王」と野次られた。そのくらい三振した。無論、グランドでも宿舎でも一生懸命に努力したのですが、どうしても打率が上がらない。その時に、荒川というコーチが、一本足で立ってタイミングをはかったらどうだろうと、案山子打法を考案した。王選手もこれだとばかりに猛練習した。その甲斐あって、ホームランの世界記録を出すまでに成長したわけです。
だから個性は、ピアノでも書道でも勉強でも、基本をマスターした後にはじめて出てくる。最初から個性的ということはありえない。それは単なる我流、自己満足。だから決して成長できない。そこで5行目には「個性とは基本の後からついてくる」と書く。

 いま例にあげたイチローにしろ王貞治にしろ、うまく仲間を利用したり出し抜いたから、天才打者になれたわけではありません。チームメートやコーチ、友人、ファンなど多くの人の親切なアドバイスや暖かい励ましがあったからこそ、怠け心や挫折感に負けることなく、人一倍の精進ができたのです。
 先に説明したように、自然界は、決して常に強い者が勝つという生存競争の世界ではない。そうではなくて、あらゆる生き物が「共存共栄」を図っているからこそ、生態系は自律的に安定しているわけです。当然、君たちも「共存共栄」を目指してこそ大きな目標が達成できる、ということになります。
 それを心に刻むために、「一人勝ち、命の掟が許さない」とノートに書いて、締めくくります。

註10『生命 40億年はるかな旅』第4巻「奇跡のシステム”性”」を参照してください。

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