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2004.02.27 Friday

3.なぜ地球は生き物の星なのか--5)地表の物質循環による環境の浄化

5)地表の物質循環による環境の浄化
 一般に循環と聞くと、何かがくるくる回っている状態を思い浮かべる人が多い。しかしながら大気圏〔天〕―岩石圏〔地〕―水圏〔水〕をめぐる物質(ガス・固体・液体)の循環経路には、濃集作用と拡散作用が対となって組み込まれている(9)。

水の循環を代表例として取り上げてみよう。海面が太陽光によって暖められると海水は蒸発する。つまり水分子が大気圏に拡散する。3000m以上の上空では水蒸気が昇華凝結(濃集)して氷晶(雪)となり、雲をつくる。このとき大気中に拡散している細かい砂塵を核にして氷晶が成長するので、大気高層に拡散した砂塵は雲に濃集することになる。雪の結晶が成長すると重くなるので、雲は地表に降りてくる。地表に近づくと気温が上がるので、雪は溶けて雨滴になり地表に降ってくる。その途中で雨滴は大気中に拡散した二酸化炭素や火山ガスを濃集する。大気汚染がなくても雨水が弱酸性をしめすのはこのためである。また砂漠の粉塵や火山灰なども濃集する。中国大陸から京都に黄砂が飛来するころに降る雨が汚れているのはこのためである。

近年、中国の工業化にともなう酸性雨の被害が懸念されている。しかし、もしも酸性雨が降らなければ大気圏に粉塵とガスが蓄積していき、終には陸上動物は呼吸器障害で死滅するはずである。酸性雨が降るということは、天然の大気浄化作用がまだ機能している証拠なのである。

大気中に拡散した天然のガスや粉塵は雨滴に濃集されて地表に戻ってくる。しかし人工的に合成されたフロンガスは水に溶けないので、雨滴に濃集しないで対流圏の上層へと風で舞い上げられていく。そして成層圏に達したフロンが紫外線で分解され、活性化した塩素原子が効率的にオゾンを破壊する。フロンガスを始めプラスチックやPCBなどの安定な化合物は、循環経路に組み込まれた濃集・拡散の作用に影響されないがために、循環経路を汚染したり循環そのものを阻害したりして、環境問題を引き起こすのである。

地表に降った雨水は、地表を流れくだったり地下に浸透したりして姿を消すが、必ずどこかで濃集する。つまり川となったり地下水となったりして海に戻っていく。そしてその間に岩石を物理的・化学的に風化する。すなわち岩石を砂利と泥と水溶性イオンに分解して拡散する。山の上で生じた風化の産物、つまり砕屑物(固体の粒子)と水溶性イオンは水(川)によって運搬されるが、さまざまなサイズと形状をもった砕屑粒子は運搬途中で淘汰され、礫は礫として、砂は砂として、泥は泥として、サイズ別に堆積(濃集)していく。そして河口で泥が凝集して沈積するとき、水中の有機物を表面に吸着(濃集)するので、海に注ぎ込む河川水は浄化される。野鳥の楽園としての干潟の役割が見直されているが、水質改善の場としても重要なのである。

一方、水溶性イオンは化学的作用や生物作用によって濃集する。たとえば乾燥地域における内陸湖や海岸では石灰岩や石膏、岩塩などの蒸発岩が形成され、カルシウムやナトリウム、カリウムおよび炭素や塩素、硫黄などが無機(化学)的に濃集する。また沿岸では鳥の糞が乾燥固化してグアノが形成され、窒素やリンが濃集する。一方、熱帯の浅海域ではサンゴ礁が形成されてカルシウムやマグネシウムなどが濃集する。さらに遠洋の深海底では鉄とマンガンの酸化物が無機的・有機(生物)的に沈殿してマンガン団塊を形成し、副成分として銅やニッケル、バナジウムなどを濃集している。また海山域では岩盤上にコバルトクラスを形成し、コバルトや白金などを濃集している。

濃集と拡散の作用は地下における物質循環の経路にも組み込まれており、造山帯や火山帯では地下に金属元素や鉱物(宝石)類が濃集する。こうした作用によって20億年前の大陸の形成以降、生き物に有害な水銀や鉛、カドミウム、砒素などの元素が、地表の岩石から取り除かれていった。そして、おそらく古生代までに地表の岩石にはほとんど含まれなくなったので、陸上に生き物が生育できるようになったのであろう。

産業革命以降、我われは、何百万年もかかって地下に固定された金属や鉱物を大量に採掘し、また何千年もかかって河川や海岸に堆積した砂利を無尽蔵に採取している。さらに数百年もかかって森林に蓄えられた有機物(樹木)を大量に伐採している。こうしたものを資源と呼んでいるが(10、75p.)、その実体は地表や地下で働く濃集作用の産物にほかならない。そして人間の時間スケールを基準にして、濃集速度の速いものを更新性資源と遅いものを非更新性資源とよんでいる。

しかしながら人間のために物質が濃集したわけではない。多くの地下資源は地表環境の浄化の副産物である。従って、せっかく地下深部に隔離されたカドミウムや水銀、鉛などを大量に採掘して地表に拡散させれば、天−地−水は重金属で汚染されて、生命圏は打撃をうける。カドミウムによるイタイイタイ病や水銀による水俣病は代表例である。また更新性のある資源といえども人間のために存在しているのではない。たとえば水資源開発と称してダムを作って川の水を蓄えているが、それは水と土砂の循環を阻害する行為であり、やはり生命圏に打撃を与える。代表例は全国で深刻化している海岸浸食であり、砂浜の縮小や消失によって貝やアナジャコなど砂地に住む底棲生物を脅かしている。また本来ならば海藻が生い茂るはずの岩礁の表面が石灰藻で真っ白く覆われて不毛化してしまう磯焼けも、原因は完全には解明されていないが、ダムや砂防ダムによる土砂のせき止めと腐植の沈殿が原因の一つに数えられている。

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