●3.なぜ地球は生き物の星なのか--2)土:固体地球と生命圏の媒介
2)土:固体地球と生命圏の媒介
地球環境問題への対応として「緑を守れ」と言う声が上がっている。植物が水と二酸化炭素からでんぷんを光合成することで草食動物を養い、それらが肉食動物を養うことで生態系が維持されていると考えているからである。確かに光合成を行う植物は基礎生産を支えているが、炭素・酸素・水素・窒素だけで生育しているわけではない。その他の元素も必要である。たとえば窒素・リン・カリウムは植物の三大栄養素であり、光合成を行う葉緑素にはマグネシウムが必要である。
植物の生育には上記の7種類を含めた16種類の元素(硫黄、カルシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素)が必須である。さらに動物にはナトリウム、臭素、ストロンチウム、フッ素、ヨード、バナジウム、ニッケル、クロム、セレン、コバルトを加えた26種類の元素が不可欠である(6)。そのうち酸素・炭素・水素・窒素は大気と水に含まれているが、残りの12元素および22元素は土壌〔土〕にしか含まれていない。植物は土から14種類の必須元素を吸収するだけでなく他の元素も吸収して体内に蓄えるので、草食動物と肉食動物は成育できるのである。もしも動物に不可欠な生元素が土に欠乏していれば動物は生きていくことができない。
その具体例がニュージーランドの牧草地である。英国からニュージーランドに殖民した白人たちは、19世紀末に原生林を大々的に切り拓いて牧草地を造成し、オーストラリアから輸入した羊を放牧した。輸送船から解放された羊は牧草を食みながらも、数週間もするとよろけて歩けなくなり死んでいった。その原因を調査した結果、コバルトの欠乏による神経障害だと判明した。土にほとんど含まれていなかったのである。そこでコバルトを含んだ岩石粉を牧草地に散布したところ羊は健やかに育ち、同国は英国に対する食肉基地として繁栄したのであった。この歴史的事実は土の主成分を生み出す母岩の鉱物組成によって土の肥沃度が左右されていることを示している。実際、方解石(炭酸カルシウム)からなる石灰岩地帯の植生は一般に貧弱である。
火山灰に由来する土を除けば、その主成分は礫と砂〔砂利〕とシルトと粘土鉱物〔泥〕であり、いずれも岩石風化の産物である。そのうち砂利は植物の根を支える支持基盤の役割を担っているが、保水力を欠いている。一方、泥に支持能力は無いが、粒子の表面に水を吸着するので、土は保水力をもつことができる。また陽イオンを吸着するので各種の水溶性イオンが保持され、最終的には根毛を通じて水と共に吸収されるのである。従って温暖な湿潤地帯では、岩石風化の産物である砕屑物〔土砂〕が堆積する崖錐、扇状地、地すべりの末端、沖積地などには肥沃な土が発達しやすい。たとえば山形盆地でみれば、脊稜山脈の山麓に発達した小さな扇状地や緩斜面には果樹園が開かれ、地すべり地と盆地は水田となっている。
このように土の存在も地球が生き物の星であるための必要条件の一つであり、土を媒介として生命圏は固体地球と直結しているのである。
地球環境問題への対応として「緑を守れ」と言う声が上がっている。植物が水と二酸化炭素からでんぷんを光合成することで草食動物を養い、それらが肉食動物を養うことで生態系が維持されていると考えているからである。確かに光合成を行う植物は基礎生産を支えているが、炭素・酸素・水素・窒素だけで生育しているわけではない。その他の元素も必要である。たとえば窒素・リン・カリウムは植物の三大栄養素であり、光合成を行う葉緑素にはマグネシウムが必要である。
植物の生育には上記の7種類を含めた16種類の元素(硫黄、カルシウム、鉄、マンガン、銅、亜鉛、モリブデン、ホウ素、塩素)が必須である。さらに動物にはナトリウム、臭素、ストロンチウム、フッ素、ヨード、バナジウム、ニッケル、クロム、セレン、コバルトを加えた26種類の元素が不可欠である(6)。そのうち酸素・炭素・水素・窒素は大気と水に含まれているが、残りの12元素および22元素は土壌〔土〕にしか含まれていない。植物は土から14種類の必須元素を吸収するだけでなく他の元素も吸収して体内に蓄えるので、草食動物と肉食動物は成育できるのである。もしも動物に不可欠な生元素が土に欠乏していれば動物は生きていくことができない。
その具体例がニュージーランドの牧草地である。英国からニュージーランドに殖民した白人たちは、19世紀末に原生林を大々的に切り拓いて牧草地を造成し、オーストラリアから輸入した羊を放牧した。輸送船から解放された羊は牧草を食みながらも、数週間もするとよろけて歩けなくなり死んでいった。その原因を調査した結果、コバルトの欠乏による神経障害だと判明した。土にほとんど含まれていなかったのである。そこでコバルトを含んだ岩石粉を牧草地に散布したところ羊は健やかに育ち、同国は英国に対する食肉基地として繁栄したのであった。この歴史的事実は土の主成分を生み出す母岩の鉱物組成によって土の肥沃度が左右されていることを示している。実際、方解石(炭酸カルシウム)からなる石灰岩地帯の植生は一般に貧弱である。
火山灰に由来する土を除けば、その主成分は礫と砂〔砂利〕とシルトと粘土鉱物〔泥〕であり、いずれも岩石風化の産物である。そのうち砂利は植物の根を支える支持基盤の役割を担っているが、保水力を欠いている。一方、泥に支持能力は無いが、粒子の表面に水を吸着するので、土は保水力をもつことができる。また陽イオンを吸着するので各種の水溶性イオンが保持され、最終的には根毛を通じて水と共に吸収されるのである。従って温暖な湿潤地帯では、岩石風化の産物である砕屑物〔土砂〕が堆積する崖錐、扇状地、地すべりの末端、沖積地などには肥沃な土が発達しやすい。たとえば山形盆地でみれば、脊稜山脈の山麓に発達した小さな扇状地や緩斜面には果樹園が開かれ、地すべり地と盆地は水田となっている。
このように土の存在も地球が生き物の星であるための必要条件の一つであり、土を媒介として生命圏は固体地球と直結しているのである。
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